RESEARCH 1
仮面の誕生
関東大震災後に建てられた<看板建築>の再利用に関するリサーチと提案のプロジェクトである。震災当時、日本橋周辺ではすでにRC造の高層建築が建ち始めていたが、その周辺のエリアにある個人商店の多くは木造の建物であった。そういった個人商店が、RC造のもつ彫塑的な外観や耐火性能への憧れ、ウィンドウショッピングの文化の始まりと共に、のちに看板建築と呼ばれる装飾性の高い建築物を作っていった。外壁はモルタルのほかには銅板葺きなどがある。装飾はそれぞれの商売に関係したものや、イニシャルなど様々である。これらは木造の構造上必要な柱梁から400mm程度外側に下地を組んで作られる<仮面>である。

RESEARCH 2
和製マジョリカタイル
実際にクライアントの許可を得て、外壁についているタイルを取り外し、調査を行った。その結果、裏面のトレードマークから<佐治タイル>のものであることがわかった。和製マジョリカタイルは、大正から昭和初期にかけて作られ、世界中に輸出されていたものであるが、外壁上部に並んでいる五枚のツバキ科の植物と考えられるタイルは、台湾の金門島・水頭集落にて同じものが使用されている例を確認できた。



RESEARCH 3
装飾の3Dデータ化
私たちはこの看板建築をリノベーションをするにあたって、外壁の装飾を可能な限りデータ化しておくことで、設計プロセスに役立て、また歴史的な資料として残すことにした。外壁に取り付けられていた茶壺の形をした佐官のオーナメントは、3Dスキャナとフォトジオメトリの技術によって一つずつデータ化を行なった。





CONCEPT
仮面と幣
看板建築が被ることとなった仮面は、商家の精神の現れである。それは大正から昭和にかけて、多くの人々の目を楽しませてきた。そして現代の私たちもまた、その仮面にある種の憧憬と人間らしい温かみを感じるのである。この建物が建てられた時代においては、地方からの出稼ぎ労働者、つまり丁稚奉公の文化がまだ根強く、寝泊まりする場所を確保するために屋根裏などを増改築するケースが見られる。今回の計画では、増築部を撤去し、なおかつ構造補強をする中で、屋根材を支える木造の張弦梁を新たに挿入することで、過去の遺構に対するシンボルとした。


DATA
プロジェクト期間 | 2017年-2019年 |
敷地 | 東京都台東区 |
業務範囲 | リサーチ、基本設計・実施設計(実現せず)、装飾物の3Dデータ化 |
構造 | 木造 |
延床面積 | 192㎡ |