
BRANDING
建築的ブランディング
江戸時代から続くお茶屋であるクライアントより新しいブランドの立ち上げの計画が持ち上がった頃、お茶の新しいブームはコーヒーのカルチャーに影響を受けたシングルオリジンへと少しずつ向かっていた。そんな中、ブランドの計画段階から建築計画まで一貫して携わることとなった私たちは、リサーチを重ね、シングルオリジンではなく、伝統的なブレンド技術「合組(ごうぐみ)」に着目した。合組の技術はお茶屋にとって自社のオリジナルブレンドの配合を示すものであり、外部に漏れることなく秘密裏に受け継がれるものである一方、複雑で深みのある風味を生み出す魅力的な技術であった。
古いお茶屋には「合場(ごうば)」という合組専用の部屋と、それに付随する茶葉審査のための「拝見場(はいけんば)」がある。拝見場は茶葉の微妙な色彩を見極めるため、壁の反射による色混じりを防ぐ必要があり、全体が黒く塗られる。
合組はいくつかの種類の茶葉を独特の動きで舞い上げたり、揺り落としながら混ぜていく。その時に使う道具がブランド名のもとにもなっている「箕(み)、茶箕(ちゃみ)」である。箕をふるっている時のサラサラとした音は静かで心地よく、ほのかに漂ってくる茶葉の香りは心まで満たす。
「古い技術を現代のライフスタイルにあった形に編集していくことこそ新しい」
との考えをクライアントと共有し、合組を主軸にブランド設計を行った。
ロゴ、パッケージ、プロダクト、WEB、建築、さらには書籍や備品の選定というスケールの異なるアウトプットに対して、一貫した強度のある筋道だてを可能にするのは、建築的思考に他ならない。私たちはブランディングにおいても建築的思考が有効であると信じている。
LOGO DESIGN
茶箕をふるう人
画家ミレーは「箕をふるう人」という絵を数枚残している。それらはいずれも、ほとんど同じ構図で、描かれているのは籾殻を篩い落とす力強い農家の姿であるが、これは作物こそ違えど、世界中で見られた素朴な光景である。そしてかつて日本のお茶屋においても、合場には茶箕をふるう人の姿があった。そこでミレーの構図をもとに、茶葉を箕でふるう姿をロゴデザインのベースとした。
PACKAGE DESIGN
BASIC MATERIAL|基本的素材
パッケージは最小限で、可能な限り環境負荷を減らすことを目標とした。それぞれの商品が独立したデザイン言語を持つのではなく、たとえば茶葉のパッケージの一部を切り取りって、ノートに貼って記録ができたり、複数の茶葉を併用する愛飲家のために、同じ無地の缶をシールを貼って見分けることができるようにするなど、購入後に手を動かしてカスタマイズする楽しさを生む仕組みや、商品間の機能的なネットワーク構築を検討した。



ARCHITECTURE
伝統的な「北の黒い空間」
お茶屋にとって茶葉の審査は最も大切な作業の一つである。その審査を行い、茶葉同士を合組するのが拝見場・合場という二つの空間である。茶葉の審査の中でも特に色を見る「外観審査」は重視され、そのため室内は黒く塗られるのが伝統的な形式とされる。また、この空間は年間を通して光の条件が比較的安定している建物北側に設けられる。
これらのことが私たちの建築設計における出発点となった。この研究開発の場で新たに働く人々が、建物のどこにいても茶葉の新鮮な青みと静かに向き合えるような空間を設計していった。

PRODUCT DESIGN
生活経験から生まれた茶漉し
煎茶の繊細な風味は、茶葉やお湯の量、それから抽出時間に影響を受ける。しかし、市販の茶漉しは深型のものが多く、急須の茶漉し穴を通りぬけた細かい茶葉や茶の粉が湯に浸かり続けてしまう。そこで茶葉や金属製の茶漉し網がお湯に浸からないよう5mmという薄型の網を設計し、燕三条の工房で製造した。網の目も50メッシュと細かく、現代において流通しているほとんどの茶葉をきれい濾すことができる。


WEB DESIGN

BOOK SELECTION

DATA
プロジェクト期間 | 2019年-2020年 |
企画・デザイン・PM・建築設計 | 岩切和馬建築事務所 |
協力 | パイナップル美術(パッケージデザイン・企画補助) Studio Seppen(ウェブエンジニアリング) Hiroko Matsuda(ロゴデザイン、グラフィック) |
クライアント | 株式会社大佐和老舗 |
リンク | MYE blend tea atelier |